社長、それは忘れて下さい!?
無理にでも笑おうと思った。だが呼吸が出来るようになると、今度は身体に力が入らなくなってしまう。そこでようやく、自分が呼吸すら忘れていたことに気付く。
「救急車呼ぶか?」
「いえ……大丈夫です……」
真っ青になって浅い呼吸をする様子を心配したのか、龍悟は歩道に設置されているベンチに涼花を座らせてくれた。さらに俯いている間に、近くのコンビニからミネラルウォーターを買ってきてくれる。彼がコンビニで買い物をしている姿など一度も見たことがなかったので、涼花はそっと申し訳ない気持ちになった。
ほら、と促されて、手渡されたミネラルウォーターを口に含む。口の中が甘さと塩辛さの記憶で埋められていたところへ無機質な水分が入り込んできて、また少し呼吸がしやすくなった。
ふとラベルを見ると、そのミネラルウォーターがルーナ・グループの製品であることに気が付いた。ごく自然に関連会社の製品を選んでいる。
その事実に辿りつくと、なんだか急に笑いが込み上げてきた。彼が自分の会社や涼花を含む部下を大切にしてくれる人だと思い出すと、それだけで気持ちがふっと楽になる。
「ふふっ」
「……なんだ? 具合悪くなったり、突然笑い出したり、変な奴だな」
「いえ……申し訳ありません」
具合が悪そうにしていた割りにはすんなりと謝罪の言葉が出てきたことに、ほっと安堵したらしい。龍悟は涼花の隣に腰掛けると、神妙な面持ちで顔を覗き込んできた。