社長、それは忘れて下さい!?

 けれど、本当はいつも嬉しかった。旭が言うように、結局は自分の気持ちを変えられないし止められなかった。

「社長が私の事を好きだと言ってくれて、本当は嬉しかったんです。こんな自分はもう嫌だって思うのに……私も、社長の事が好きで……。止められ、なくて」

 好きだから、触れたいし、触れられたい。

 気恥ずかしくて、嬉しい。想いに応えられないことが申し訳なくて、苦しい。

 この先もずっと背反する感情の中で揺れ動きながら仕事を続けるのか、いっそ傍を離れるのかの二択しかないと思っていた。

 けれど、涼花は少しだけ考え方を変えることができた。自分にはなかった発想を知って、少しだけ前向きになれた。

「触れて欲しくて。本当は……忘れてほしくなくて」

 忘れてほしくない。
 覚えていてほしい。

 まだ解決策はわからないし、一生解決することがないかもしれない。けれど、今の気持ちを伝えることは出来る。言葉に出して、自分の想いを知ってもらう事は出来るから。

 溢れ出る想いを一方的に話し続けているうちに、目頭の奥がツンと痛んだ。

 涙が出てしまうかもしれない、と思った瞬間、涼花はその場に立ち上がった。ただでさえ迷惑をかけているのに、泣いてしまったら龍悟をさらに困らせて、気を遣わせてしまう。そう思って背を向けたが、後を追うように立ち上がった龍悟の腕が涼花の肩に伸びてきた。

 気配を感じた次の瞬間には、涼花は龍悟の腕に捕まっていた。後ろから抱きすくめられたと気付くと、驚きで涙も引っ込む。
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