社長、それは忘れて下さい!?
「記憶を無くせば、俺はまたお前を傷付けるかもしれないが……」
その戸惑いを自分自身で認めるように呟く。認めた上で、覚悟した上で、それでも涼花の心の奥深くに――すべてに触れようとしている。
「お前の言う事は全部信じる。だから涼花……触れさせて欲しい」
そう言ってまた親指の腹が唇の輪郭をそっと撫でる。龍悟は指先で唇の感触を確かめながら、懇願するように涼花の瞳を覗き込んだ。
「嫌か?」
「……嫌じゃ、ないです」
嫌だなんて、あるはずがない。
涼花はもう十分すぎるほど知っている。龍悟が全てを受け入れてくれることを。記憶を無くしても、ちゃんと好きだと言ってくれることを。
「教えます。全部、話します。あなたが私の話を、信じてくれなくても……」
龍悟にはたくさん教えてもらったから、今度は涼花が教える番だ。きっと忘れてしまうだろうけれど、今度は全てちゃんと話す。逃げずに、誤魔化さずに、ありのままの出来事と自分の気持ちを伝えたい。
「私はあなたが好きですって……ちゃんと……っん」
一生懸命に伝えようと思ったが、降りてきた龍悟の唇に先の言葉は全て奪われた。触れた唇はすぐに離れたが、お互いの視線が絡むとまたすぐに奪われる。
後頭部に回された手のひらが、舌の熱さに驚いた涼花の逃げ道をゆるやかに塞ぐ。獲物を捕らえるように何度も名前を囁いた龍悟は、さらに強い力で涼花の身体を抱き寄せた。