社長、それは忘れて下さい!?
そう言って龍悟は涼花の手首を掴むと、自分の股の間にその手を引きずり込んだ。ルームパンツ越しに、涼花の指先には大きくて硬い感触が伝わり、思わず手を引っ込める。龍悟の顔を見ると、彼はまた可笑しそうに笑っていた。
「私……恋人、なんですか?」
「なんだ。自分の事を覚えていられない男は、恋人にもなれないか?」
「いえ、そうではなく……」
寂しそうに呟いた龍悟に誤解されないよう、慌てて首を振る。
「いいんですか。私なんかが恋人で……」
想いは通じ合ったし、そう言ってくれるのは嬉しいが、やはり根本的な解決はしていない。
それに今日はたくさんキスしてしまった。キスと記憶の時間や量が比例するのかはわからないが、もしかしたら最悪の場合、前日の出来事を丸々一日分忘れてしまう可能性だってある。もしそうだとしたら、二人の関係どころか仕事にまで影響が出かねない。
「お前、まだわかってないらしいな」
涼花はそう考えたが、呆れた顔をした龍悟は涼花の頬をむに、と摘まんではにかんだ。
「好きだ、涼花。――恋人になるのに、他の理由なんて要らないだろう」
耳元で低く囁かれる。甘い刺激に思わず首が引っ込むと、半身を起こした龍悟に上から覆い被されて唇を重ねられた。そのまま角度を変えて、何度も深いキスが繰り返される。
「私も好きです……龍悟さん」
離れた瞬間に早口で告げるだけで、恥ずかしくなってしまう。けれど龍悟は耳元で『知ってる』と呟くと、涼花の照れごと愛おしむように肌の上に指先を滑らせた。