社長、それは忘れて下さい!?
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翌朝。スマートフォンのアラームが聞こえたので、涼花はそっと目を覚ました。
いつもと同じアラームなのに、微妙に聞こえる方向が違う。そっと目を開けると隣で龍悟が眠っていたので、驚いた。一気に覚醒してあたりを見回すと、すぐにここが龍悟の寝室であると気付く。
シャワーを浴びた後にリビングから寝室へ移しておいたスマートフォンは、ベッドキャビネットの上に乗せられていた。手を伸ばしてアラームを止めていると、隣で龍悟がもぞもぞと動き出した。
「おはよう、ございます……」
涼花が恐る恐る訊ねると、龍悟は少し寝ぼけた様子で『あぁ』と低く呟いた。続いて大きな欠伸を一つ零すと、目線だけで涼花の顔を見つめてきた。
「社長、あの……」
「……涼花。呼び方、戻ってる」
涼花は昨日の経緯を話さなければいけないと覚悟を決めたが、その言葉は龍悟に遮られた。聞こえた言葉に驚いて、思考と動作がゆっくりと停止する。
「全部覚えてるぞ」
ようやくベッドの中で姿勢を変えた龍悟は、枕の上に頬杖をついて涼花の顔を眺めながら、楽しそうにそう言った。
龍悟は涼花が説明をする前に『覚えている』と言った。しかもその前に涼花の名前を呼び、『呼び方が戻っている』と社長と呼んだことを訂正してきた。
「ほんと……に?」
信じられない気持ちで呟く。