社長、それは忘れて下さい!?
まだ夢の続きなのかもしれないと思う。なぜなら昨日はたくさん抱き合って、たくさんキスをした。優しい言葉を囁かれ、甘い声で名前を呼ばれて、ただひたすらに幸福な時間を過ごした。
そのすべてを、龍悟は忘れていないと言う。
「俺が嘘をついてると思うのか?」
この時点で龍悟の言葉が本物だと、頭の中ではわかっていた。たがにわかには信じられない。固まった涼花に小さな苦笑を零すと、龍悟は楽しそうに何かを数えだした。
「オレンジの次はラベンダーで……昨日は、ピンクだっただろう」
龍悟がベッドの中で頬杖をついたまま笑う。何の話か分からずに首を傾げると、背中に手を回した龍悟がベッドの下に落ちた何かを指先の感覚だけで探り始めた。
すぐにベッドの下から目的のものを引き上げた龍悟は、拾ったものを口元に擦り寄せた。
「ほら、当たってる」
彼が唇を寄せたのは、涼花が昨日身に着けていた下着だった。龍悟は楽しそうに、上目遣いで涼花を見つめる。
龍悟は確認する前に当たりの宣言をしたが、言われて視線を下げると、確かに涼花の下着は薄い桃色の生地にピンクや赤の小花が周囲を縁取った、可愛らしい色のものだった。涼花は思わず叫んでしまう。
「社長……! それは! 忘れて下さい!」
だから呼び方戻ってるって言ってるだろ、と龍悟の言葉が重なった。
涼花はこの時はじめて龍悟の記憶がすべて消えて無くなればいいと本気で思ったが、その後も龍悟が涼花の下着の色を忘れることはなかった。