社長、それは忘れて下さい!?
油断していたところで急に核心を突くような言葉をかけられる。唐突に龍悟とのキスを思い出したので慌てて否定しようとした。だがミーナが慈しみの眼差しを向けて『私も好きだから、恥ずかしがらなくても大丈夫よ』と言うので、羞恥を感じつつも否定の言葉は引っ込めた。
「涼花にとって『キスをする』っていうのはすごく大事なアクションなんだと思うの。きっとキスをすると、幸せホルモンが分泌されるのね」
ミーナは涼花の照れを包み込んで、涼花が委縮しない言葉を選択してくれた。
彼女の説明によると、ホルモンは脳から自分の体内に向けて放出される分泌物で、基本的には自分自身にのみ作用するものらしい。対してフェロモンは一般的には汗腺から分泌される刺激物質で、自分以外に作用することが多いという。
ただし涼花の身に起きている現象が本当に『フェロモン』によるものなのかは、ミーナにも分からないらしい。
「涼花自身の記憶力が良いことも関係してるんだと思う。脳が混乱してる状態で性への活性ホルモンが分泌されると、『幸福』『快感』『不安』『恐怖』『記憶』……色んな因子が混ざり合って、相手の記憶に特異的な影響を与えてしまうと推察できるわ」
ミーナの言葉は少し難しいが、要約すると『記憶が無くなってしまう原因が涼花の体質にある』ことは間違いないという事だ。