社長、それは忘れて下さい!?

 会社のエントランスに入ると、受付担当の女性社員も既に帰宅しており、カウンターの上には『本日の受付は終了いたしました』と書かれたプレートが置かれていた。本来ならば来客名簿にミーナの名前を書かなければいけないが、社長直々の許可もあり仕事でもないので、そのまま素通りする。

 最上階に到着すると、指定された通り執務室ではなく社長室の扉をノックした。中から返事が聞こえたので、扉を開けてミーナを先に通す。

「は……?」

 社長室に入ったミーナの顔を見た瞬間、龍悟が驚きの声を上げた。その反応に、涼花は自分もさっきこんな顔をしていたんだろうな、と頭の片隅で小さく反省した。

「はじめまして。藤川の上司の、一ノ宮龍悟です」
「こんにちは、ミーナです」

 互いに挨拶をする二人を眺めていると、隣にやってきた旭が涼花の腕を小さく小突いた。

「涼花、あれ見て」
「えっ……?」

 旭に言われて、示された方に視線を向ける。社長室の壁に収められたモニターは珍しく地上デジタル放送に接続されており、夕方のニュース番組が流れていた。

 その画面の下に表示されていたテロップと、映像に映ったのが見知った人物だったので、涼花は思わず驚きの声を上げた。

「杉原社長が……逮捕!?」
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