社長、それは忘れて下さい!?

 テロップには『大手ホテルオーナー強制わいせつ罪の疑いで逮捕』と記されている。フラッシュがばしばしと瞬く中、俯いたまま捜査官に連れられて車に乗せられているのは、間違いなくあの杉原だ。赤い枠に白字で『速報』と書かれているところを見ると、恐らく映像が撮影されたのはここ数時間の事なのだろう。

 驚きで言葉を失った涼花だったが、疑問には思わなかった。むしろいつかこうなる日が来るのではないかと思っていたことが、現実になっただけのような気がする。

「誰? 知り合い?」
「うん。取引先の社長さん」

 一人だけ状況を理解していないミーナに旭がさらっと返答すると、ミーナも『ふーん』と軽い返事をした。後で旭から説明を受けて、ミーナもきっと驚くのだろう。

 未だニュースキャスターの話す言葉と映像に釘付けになっている涼花を余所に、旭は龍悟の横顔を見て笑みを深めた。

「次は製薬会社ですか、社長?」

 応接ソファに寄りかかりながら、旭が意味ありげに笑う。その表情をちらりと見ても、龍悟は澄ました笑顔で旭の言葉を受け流すだけだ。

「さぁ? なんの話だ?」

 白を切った龍悟の口調に、旭は肩を竦めた。この件に関して龍悟が何らかの手を回したことは明らかだ。痕跡を巧妙に消すために準備期間を要してしまったが、龍悟は何においても完璧に情報を収集し、緻密な計画を立て、幾重にもシミュレーションを繰り返し、確実に実行に移す戦略を好む。

 もちろん龍悟は汚い手を使ったわけではないだろう。正攻法で詰めても十分なほど、相手があまりに浅慮で軽薄だっただけだ。
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