社長、それは忘れて下さい!?
「ところで旭。私、貴方に話があるんだけど?」
「え、なに……? 機嫌悪い? もしかして俺コレ、怒られる感じ?」
テレビの画面を見ていたミーナが、ふと思い出したように旭に声を掛けた。涼花はすぐにミーナの怒りの原因に気付いたが、犬も食わない痴話喧嘩には介入しないに限る。
怒ったように頬を膨らませたミーナと、困ったように機嫌を取り始めた旭のやり取りは、見ているだけで面白かった。
「……仲良いな」
「……ですね」
龍悟も似たような感想を持ったらしく、ぼそっと呟いたので涼花もそっと同意した。
「涼花」
二人を見つめる涼花の傍に近寄ると、龍悟がそっと涼花の名前を呼んだ。旭もミーナも聞いてはいなかったが、涼花は龍悟を窘めるように声量を落とした。
「社長、ここ会社ですよ」
「もう仕事は終わった。それより、今夜は何が食いたい? 何でもいいぞ」
「……たまには社長が食べたいものにしましょうよ」
「俺はいーんだよ。夜にもっと美味いものが食えるから」
「ちょ……何言ってるんですか、もう!」
不敵な笑みを浮かべた龍悟の台詞を聞いて、意味を察した涼花が反射的に叫んだ。だが龍悟は涼花の抵抗の言葉を聞いても楽しそうに笑うだけだ。
「……じゃあ、カレーが食べたいです。野菜とお肉がたくさん入ったカレー。楽しみにしてますね、龍悟さん」
観念した涼花が頬を膨らませながら提案する。それを見た龍悟はとろけるような笑顔を向けて、涼花の額に小さなキスを落とした。
――Fin*