社長、それは忘れて下さい!?
1-4. Bitter memories
「は?」
間の抜けた声を聞いて、思わず苦笑してしまう。龍悟はきっと、涼花が大恋愛の末に大失恋した話でもされると思っていたのだろう。そんな予想をしていた涼花は、眉を顰めた龍悟の顔をじっと見つめて苦笑いを零した。
大学二年の時、涼花に初めての恋人が出来た。二つ年上の先輩に告白され、所属していたサークル公認の恋人同士となった。
最初の頃は仲良くデートを重ねていた。たどたどしいながらも、涼花の初体験はその先輩とであった。
しかし初めての体験から数週間が経過したある日、恋人の先輩がサークル仲間たちに『涼花の愛情表現が重い』と話しているのを聞いてしまった。『一回もやらせてくれない』『期待させておいて、いつもお預け』『男の性欲を逆手に取って楽しんでいる悪女』とひどい陰口を叩かれていると知ってしまった。
そしてその次のデートのとき、先輩に『させてくれないなら恋人なんて言えない。別れよう』とあっけなく振られてしまった。涼花は追い縋ったが、不思議なことに先輩は涼花との行為の一切を、本当に記憶していない口振りだった。
意味が全く分からなかった。今まで感じたことのない羞恥と破瓜の痛みに耐えて大事な初めてを捧げた相手に、その全てを蔑ろにされた。