社長、それは忘れて下さい!?

 覚えているのは自分だけで、先輩は涼花の初めてを何一つ記憶していない。そればかりか、別れの原因を涼花に押し付けて、話のネタにされていたのだ。

 サークルは違ったが大学が同じだったエリカに話すと、彼女は涼花以上に怒りを露わにして慰めてくれた。しかし悲しみとショックは大きく、サークルはそのまま辞めてしまった。先輩がどうして不思議な作り話を広めたのかは、結局は有耶無耶になってしまった。

 その後、大学四年の時に新しい恋人が出来た。その時の恋人は一つ年上の社会人で、涼花がいた学部の卒業生だった。就活の際に親身になってくれた優しい男性と打ち解け、自然と恋仲になった。だが数回のデートの後、その恋人も涼花との行為の一切を記憶していないことを知った。

 それだけではない。その恋人は涼花をストーカー呼ばわりして『就活で親身にしてやっただけなのに、自分の家までやってくる』と警察に訴え出たのだ。当時すでにグラン・ルーナ社から内定をもらっていた涼花は、騒ぎが大きくなって会社に迷惑がかかる前に相手とはすっぱり縁を切った。

 後にその元恋人が別の女の子と浮気をしていたことを知り、更にどん底に突き落とされた気分になったが、エリカの慰めにより大きく塞ぎ込まずにいられた。
< 23 / 222 >

この作品をシェア

pagetop