社長、それは忘れて下さい!?

 二人に共通することは『涼花を抱くと、その記憶を失ってしまう』ということだった。

 それからの涼花は、自分の人生から恋愛の一切を追い出すことで心の均衡を保ってきた。心無い言葉や行動に傷付けられるのを恐れ、いつの間にか恋愛そのものが怖くなってしまった。

 確かに人肌が恋しい日もある。だが自分の一方的な想いばかりが募って相手に蔑ろにされてしまったら、結局傷付くのは自分なのだ。それならまだ、寂しい夜を我慢した方がいい。

「……ファンタジーの話か?」

 涼花の話を聞いた龍悟がこめかみを押さえながら呻く。涼花は

「私もそう思うことにしています」

 と返事をしたが、龍悟の眉間の皺は深まるばかりだった。

 多分信じないだろうと思っていた。自分が不思議な話をしている自覚はある。だが龍悟は、思いのほか真剣に涼花の悩みについて考えてくれた。

「お前を抱いても、相手の男はそれを忘れると?」
「そういうことになりますね」

 ファンタジーでしょう? と肩を竦めると、隣から再度唸り声が聞こえてきた。
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