社長、それは忘れて下さい!?

 本来は上司に、しかも想い人に聞かせるような話ではない。けれど涼花は、龍悟が『焦るな』『大丈夫だ』といつものように励ましてくれることを期待した。もしくは『下らない』と笑い飛ばしてくれてもよかった。

 だから信じてもらえないことを前提で話したが、話すことで気持ちは随分楽になった。先ほどまでの不快な気分も感じないので、歩いて帰るのも問題はないと思える。

「だから私、出会いのイベントも合コンも行くつもりないんです。恋愛も、もうしないって決めてるので」

 そもそもこんな話になったのは、エリカとの会話を聞いていた龍悟が『合コンに行くのか』と聞いてきたからだ。ことの経緯を思い出し、改めてイベントには行く気がないことを言い添える。

 誰かと付き合う勇気は、まだ持てそうにない。だから合コンに行く気がないのは本当だが、恋愛をしないと言うのは嘘だ。何故なら今、涼花の目の前には想い人がいる。

 誰かを好きになる気持ちはどうしても止められない。けれどこの想いを伝えるつもりはないし、知って欲しいとも思っていない。一番近い場所で仕事が出来るだけで、十分満足しているのだ。

 心の中でそう結論付けて立ち上がる。歩き出そうとしたところで、背中に龍悟の不機嫌な声がぶつかった。
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