社長、それは忘れて下さい!?
龍悟の言い分に、違和感を覚える。どうやら涼花は龍悟に『あまり笑わない人』だと思われているらしい。
勿論そんなことはない。確かにへらへら笑う秘書なんて相手に良い印象を与えないだろうし、自分の態度が龍悟の人間関係に影響することも知っているので、仕事中はあまり感情を表現していない。だが面白いことがあれば普通に笑うし、可愛い動物や小さな子どもを見れば自然と笑顔にもなる。
しかし仕事中はそういった場面に出会わないので、龍悟は涼花を『笑わない』と認識しているようだった。
龍悟はまた意地悪な笑みを浮かべる。
「どうして笑う必要があると思う?」
「……わかりません」
「商談のときにお前が笑顔を見せてやれば、男共がすぐ落ちるからだ。みんなこぞって契約書にサインするだろうな」
「は……? そ、そんなわけないでしょう……!」
「本当だ。まぁ、信じなくてもいいが……それも俺の戦略だと思ってくれればいい」
いつものような人当たりの良い笑顔の中に、経営者としての野心と計略が混ざり合う。そのやわらかくも鋭くもある笑顔で、龍悟は涼花をさらに説き伏せた。
「だが急に笑えと言われても、笑えないんだろ? だから秋野、お前は恋愛をしろ。感情を表現することを覚えろ。うちは別に社内恋愛禁止じゃないし、仕事に支障がないなら社内に恋人を作っても構わない」