社長、それは忘れて下さい!?
龍悟の言葉を聞いた涼花は、密かに衝撃を受けた。思わず絶句してしまう。
確かに恋人はいない。だが、恋ならしている。目の前の龍悟に。しかしそれを表に出すわけにはいかないので、普段は必死に感情を抑えているのだ。
平静を保っているだけで、本当はずっと憧れている。恋焦がれている。なのに、その相手に恋人を作れといわれてしまった。
龍悟は気付いていないが、涼花は遠回しに失恋したということになる。おまけに涼花が感情を表出して笑えるようになったら、会社に利益をもたらすと言う。龍悟が涼花のことを恋愛対象だとは思っておらず、会社のために涼花を利用しようとしているのは明白だ。
言葉が出てこない。元より社長である龍悟とどうこうなるとは思っていないし、実際あっても困るのだが、こうも簡単に玉砕するとなるとダメージも大きい。沈黙して俯いた涼花を余所に、龍悟はそっと溜息をついた。
「そのためには、まずそのマイナスファンタジーをどうにかしないとな。だから俺が証明してやる。俺は絶対に忘れない」
「いえ、あの……私としては忘れて頂いた方がありがたいのですが……」
「くどい!!」
ピン、と額を爪先で弾かれた涼花は、鳩が豆鉄砲を食らったようにぽかんと口を開けて目を見開いてしまう。
「いいから黙って抱かれろ。それで明日俺がちゃんと覚えてたら、お前は来週友達と合コンに行ってこい! 社長命令だ!」
「そ、そんな……!」