社長、それは忘れて下さい!?
龍悟がエレベーターのパネルに社員証をかざしながら呟く。その台詞を聞いて、涼花は思わず固まってしまった。
そうだ、何のために龍悟と夜を共にしたのか。
それは彼の好奇心を満たすためではない。涼花の淡い恋心を満たすためでもない。
会社の利益のために、涼花は自然な感情表現を身につける。そのために恋愛をする。恋愛をするためにはトラウマを乗り越える必要がある。そしてトラウマを乗り越えるためには『涼花を抱いた男性が記憶を失う』という『ファンタジー』から目覚める必要がある。龍悟の提案に応じた理由は、その証明の為だ。
「ちゃんと覚えてるぞ」
龍悟はエレベーターのパネルに触れると、涼花の目を見てそう言った。
涼花に『重い女だ』と吐き捨てた目ではない。『ストーカーだ』と罵った目ではない。しっかりと涼花の目を見て、優しい笑顔で、彼は『覚えている』と言うのだ。
「……うそ」
口元を押さえて呟くと、龍悟は会話が噛み合ったことに安堵して息をつく。
「嘘じゃない。秋野は下着がオレンジで、胸が大きくて、感度が良くて……」
「え、ちょ、ま……ちょっと!?」
「それから」