社長、それは忘れて下さい!?
指折り数えながら恥ずかしい出来事を羅列するので、涼花は慌ててその手を弾いて散らした。すると龍悟は、涼花の手首を掴んでぐっと引き寄せると、
「声が可愛かった」
「っ!」
と低く呟いた。
驚いて身を引く。顔に熱が集中していくのが自分でもよくわかる。
言葉を失った涼花を見て、龍悟は噴き出しながらもやってきたエレベーターに颯爽と乗り込んだ。涼花も後を追って下階へのエレベーターに乗り込むと、最初に赴く部署がある階のボタンを押す。
「ま、そういうわけだ。秋野の昔の男が相当頭が悪かったのか、俺が変わっているのかは知らないが、少なくともお前のファンタジーが効かない人間がいることは証明されたな」
エレベーターが下降する感覚を感じながら、楽しそうな笑い声を聞く。涼花が過去に付き合ってきた男性が著しく記憶力に乏しい可能性も、自分が変わっている可能性も含めて、面白い出来事に遭遇したように龍悟は上機嫌だ。
「秋野こそ、俺との約束は覚えてるよな?」
「金曜日の……イベント……」
「そう、それ。ちゃんと行って来いよ」
「……うぅっ」
龍悟の目的はあくまで会社に利益をもたらすこと――涼花が自分の感情と立ち振る舞いをコントロールすることで、取引を円滑に進めることにある。