社長、それは忘れて下さい!?
龍悟と旭に同時に言われ、背中に嫌な汗が伝う。今回の接待は、首都圏を中心に都市部でシティホテルの経営をしている社長の杉原とその秘書、杉原の部下である役員との会食だ。
この度杉原が新しくオープンした温泉観光地のスパホテルの一階と最上階に、グラン・ルーナ社が経営するレストランとバーが入ることで業務提携が結ばれた。契約に携わったグラン・ルーナ社の担当者たちとは既に記念会食を終えたらしいが、先方が『一ノ宮社長とも是非』と申し出てきたのだ。
龍悟は面倒くさそうだったが、相手は龍悟が社長になる以前からグループ全体が懇意にしている人物らしく、簡単に無下には出来ないようだった。
「私、杉原社長にはお会いした事ないんですよね……」
契約を提携するに先立って催された会食には、涼花は同席していなかった。なぜなら。
「お前、インフルエンザで出勤停止中だったからな」
「……申し訳ありません」
龍悟の指摘に縮こまると、隣にいた旭が可笑しそうに笑う。三人でエントランスから外へ出ると、入り口のロータリーには社長専用車が横付けされており、近くには専属運転手の黒木が控えていた。
「割と早い段階で『会わない方が良かった』と思うよ。きっとね」