社長、それは忘れて下さい!?

2-2. Trouble occurred


 会食は和やかに進んでいた。
 ように思えた。

 涼花は運ばれてきた海鮮料理と酌まれた酒を味わいながら、向かいに座る中年の社長秘書と会話をしていた。その涼花が隣にいた旭の肩にもたれかかって呻き声を零したのは、会食が開始してから二時間ほど経過した頃だった。

「え……秋野? どうした?」

 驚いた旭が会話を中断して隣を見ると、涼花が口元を押さえて荒い呼吸を繰り返していた。その顔は血の気が引いて青白く、今にも吐き出しそうに歪んでいた。

「藤川さん……ごめ、なさい……何か、気持ち悪くて……」

 途切れ途切れに答えると、すぐに大きく息を吐く。普段酒に酔わないはずの涼花が、こんなにも簡単に体調不良になるなんておかしい。そのただならぬ様子に気付いた全員が、食事や会話を止めて涼花に注目した。

 龍悟が旭の背後から涼花の姿を覗き込む。しかし口を開こうとした瞬間、涼花から一番遠いはずの杉原が、最も事態を把握しているように大きな声を上げた。

「大変じゃないか! 気持ち悪いなら、横になった方がいいんじゃないか!?」
「しゃ、社長……」

 演技がかった台詞を聞いた杉原の秘書が、彼を止めようとする気配を見せた。しかし杉原は自分の秘書の言葉などまるで聞こえていないように、

「横になるなら、上階に休める部屋があるぞ。一ノ宮君、そこを使ったらどうかね?」

 とストレートな提案をしてきた。
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