社長、それは忘れて下さい!?
その台詞を聞いた龍悟は、すぐに白々とした気分になる。
(盛ったな……)
心の声は、旭の考えと全く同じだったのだろう。龍悟の隣で、旭が明らかに引いたように眉間に皺を寄せている。
「今夜私が使う予定だった部屋だが、君の秘書に貸してあげてはどうだ?」
「……いえ。具合が悪いようなので、病院に連れて行きます。杉原社長、申し訳ありませんが、本日はこれで……」
「何を言ってるんだ! 具合が悪いなら無理に動かさずべきじゃない! 落ち着くまで休めばいいだろう!」
「しかし……」
龍悟は杉原の頭を空いた刺身皿に押し付けて、そのまま黙らせてやりたい気分になった。
事前に確認した通り、席を外すタイミングには十分注意していた。しかしどういう訳か、涼花にだけ平素では起こらないような異変が起きた。彼か彼の部下が、隙をついて涼花の酒か料理に何かを入れたのは明白だった。
興奮気味にまくし立てる杉原をどう言いくるめれば良いかと考えていると、見ていた旭が横やりを入れてきた。
「僭越ながら、申し上げます。杉原社長、秋野はアレルギーがあるんです」
「ア、アレルギー?」
「そうです。きっと気付かずに苦手な食材を口にしたのでしょう。ですから、病院で処方された薬を飲むか点滴をしなければ症状は治まりません。いくら横になっていても辛くなるばかりでしょう」