社長、それは忘れて下さい!?

 旭が中年親父の淡い可能性を握りつぶすよう懇切丁寧に説明すると、さすがの杉原も押し黙った。根拠のある説明をされれば反論も出来ないのだろう。

「ですよね、一ノ宮社長?」
「あ、ああ、そうだ! なんだ、秋野! 薬持ってきてないのか!? じゃあ病院に行くしかないな!」

 龍悟が半分意識のない涼花に棒読みで話しかけると、聞いてた旭が横を向いて咳払いをした。その顔を見ると、前歯と唇の間に空気をためて震えているので、必死に笑いを堪えているとわかる。龍悟は旭の態度に腹立たしさを覚えたが、彼への仕置きはとりあえず後回しにする。

「申し訳ありません、杉原社長。この埋め合わせは致しますので」
「あ、いや……」
「行くぞ。歩けるか、秋野」

 手早くタクシーの手配を済ませていた旭に代わり、龍悟が涼花の肩を抱いて引っ張り上げる。しかし涼花は足にも力が入らず、歩くどころか立ち上がることすら出来なかった。

 小さく謝罪を入れてから、身体を横向きに抱き上げる。その振動で涼花が再び、ウッと呻き声を上げる。しかし吐きたくても吐けないのか、その口からは苦悶の声以外何も出てこなかった。

 店の入り口に到着していたタクシーの後部ドアが開くと、涼花を抱いたままそこに腰掛ける。

「すごいストレートなやり口ですね。正直ドン引きしました」
「お前、顔に出すぎだぞ」
「いやー、だって向こうの演技も相当やばかったですけど、社長の演技も中々でしたよ?」
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