社長、それは忘れて下さい!?

 肩を竦めた旭からジャケットと涼花のバッグを受け取ると、座席の空いているスペースに放り投げる。旭も乗り込んでくるかと思ったが、彼は

「調べておきますよ。盛られた薬と入手先。知らなきゃ今後、対策出来ませんからね」

 とにっこりと微笑んだ。

 旭はこの後、解散した宴会場から空の薬包や飲食物の残りを回収して、食品研究部に成分の分析調査を依頼する。そして製薬会社のデータベースと杉原の交友関係を照らし合わせて、薬物の入手ルートを探るのだろう。

 感心して小さく息を吐く。この緊急時によく頭が回ることだ。

「病院に連れて行くんですよね?」
「……当り前だろ。俺は医者じゃない」

 龍悟の考えを読んだのか、旭が意地の悪い確認をしてきた。

 当然、旭は涼花の身体に起こっている変化に気が付いているだろう。なんせあのエロ社長が考えることだ。

 龍悟の不機嫌そうな声を聞くと、旭はタクシーからそっと離れた。扉が閉まった先で、ひらひらと手を振られる。

(わかっている、が)

 旭の言葉を脳内で反復しながら、会社から一番近い病院名を運転手に告げる。ここからだとかなり遠いが、社員の健康診断も一括で依頼している大きな病院なので、夜間の緊急外来だとしても龍悟の顔がきくだろう。

「ん、うう……」
「秋野? 気が付いたか?」
「……」
「……まだダメか」
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