社長、それは忘れて下さい!?
腕の中で苦しそうに呻く涼花の様子に、龍悟はひとり苦悩した。
こんな事になるなら、最初から涼花を連れてこなければよかった。確かに龍悟が交友のある人物ならば、秘書も顔馴染みになったほうが今後の業務を円滑に運べるのは事実だ。
しかし相手は選ぶべきだった。前回はインフルエンザだったのだから、今回も病欠だと適当な理由をつければよかったのに、迂闊だった。
「ふぁ、……ん」
「まだどころか、これからか……」
だんだんと呼吸が荒くなってきた涼花の様子に、龍悟は再び頭を抱えた。
この状態の涼花を病院に連れて行って、医者になんと説明すればいいのだろう。顔見知りの病院のカルテに、この状態が記載されて残ることを、涼花は許容できるのだろうか? いやそもそも、病院に連れて行ったところで症状は治まるのだろうか? 点滴をして薬の濃度を下げれば効果は薄まるだろうが、辛い身体の疼きは確実に残るだろう。
「悪いな、秋野」
身体を抱く腕に力を込めると、運転手に行き先の変更を告げる。ここからだと病院よりは早く到着できるだろう。
タクシーが車線を変更すると、車体の動きに揺られて涼花が龍悟の胸に寄りかかってきた。まるで龍悟に助けを求めて縋るような挙動だが、実際は涼花の意思とは関係がない。
その事実に気付くと、龍悟の眉間の皺は更に深くなった。