社長、それは忘れて下さい!?
2-3. Divergence of heat
足で寝室のドアを押し開けると、部屋の中央のベッド上に涼花の身体を静かに下ろす。その目は未だ開かず、始めは青白かった顔色が今度はうっすら赤く色付いている。息苦しそうに身体を揺らす様子を見ると、決して楽にはなっていないとわかる。
空調を整えてカーテンを引くと、いつ嘔吐してもいいように洗面器と水差しを用意する。見慣れた自分のベッドに仕事でしか会わないはずの涼花が横たわっているのは、奇妙な光景だった。
龍悟が傍に腰掛けるとベッドが沈む感覚に気付いたのか、涼花がうっすらと瞳を開けた。
「吐きそうか?」
きっと頭が回っていないだろうと考え、無駄な説明を省いて涼花の身体を楽にすることを優先する。
龍悟の問いかけに開けたはずの瞳がゆっくり閉じられ、再びゆっくりと開く。朦朧としているらしく意識の置き場さえ判然としない様子だが、程なくして涼花は無言で首を横に振った。
「辛いか?」
急を要するような吐き気は治まっても、相変わらず呼吸は荒い。涼花は次の問いにも応答に時間を要したが、今度は、こくん、と顎を引いた。
「とりあえず、上着は脱がすぞ」
呼吸がしやすいように上着を剥ぎ取ると、シャツのボタンを二つだけ外す。少しは呼吸が楽になったかと様子を確認すると、涼花は覚束ない指先を動かして三つ目のボタンも外そうとしていた。
「おい、秋野……!?」