社長、それは忘れて下さい!?

1-1. Respected boss


 グラン・ルーナ社の代表取締役社長、一ノ宮龍悟は、非の打ち所がない完璧な人だった。総務課に配属された新卒の頃の涼花は、彼がこんなにも出来すぎた人間だとは想像もしていなかった。

 ルーナ・グループは農水産物の生産や加工、食品の製造・販売、飲食店およびホテル内レストランの経営、輸入食品の販売や自社製品の輸出など、飲食と名の付く業界に幅広く参入し、そのいずれにおいても年商黒字額を更新し続ける巨大グループだ。

 名誉会長の孫である一ノ宮龍悟は、経営戦略を学んでマネジメント能力を磨き上げるために、大学卒業後すぐに一族が経営する会社に入社した。

 そこから系列である四つの会社に二年ずつ所属し、現在は飲食店やホテルレストランの経営を主とした『グラン・ルーナ社』の社長のポストに就いている。

 完璧な経歴を彩るのは、完璧な容姿と人柄だ。一八七センチの高身長と均整の取れた体躯は、立つ姿にも座る姿にも優雅な風格が漂う。

 さらに精悍な顔立ちと切れ長な目元は、相手にシャープな印象を与える。性格は明るく温和で、相手の心情を酌み取る感覚にも長けており、話すと知性を感じさせる。彼の品格と才気にあふれる立ち振る舞いは、社内外や男女を問わずすぐに相手を魅了してしまうのだ。
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