社長、それは忘れて下さい!?
断片的に龍悟の顔を見上げた覚えがある。それから、何かを話している旭の声も。
「……」
思い出せるのはそれぐらいだ。後は今この瞬間まで記憶が一気に飛んでいる。
「あの……もしかして私、酔い潰れてしまいましたか?」
アルコールに酔うなど今までの人生で経験したことがなかったが、もしかしてその最初が、昨日だったのかもしれない。咄嗟に大失態を犯してしまったと思ったが、龍悟はすぐに涼花の不安を否定してくれた。
「秋野、落ち着いて聞いてくれ」
「……はい」
「お前は昨日、薬を盛られたんだ」
龍悟の説明を聞いた涼花の思考が徐々に減速する。『くすり?』と頭の中で反復する。不安げな龍悟に対して何か反応しなければと思ったが、何も思い浮かばなかった。
「旭に調べてもらってるが、中身は性的精神興奮剤の一種じゃないかと予想している」
「えっと……それは……?」
「端的に言うと媚薬だな」
あっさりと言い放った龍悟の言葉に、驚きを隠せない。今度こそ本当に言葉を失った涼花に、龍悟は目線を合わせるのも忍びないといった様子で、何もない空間を見つめて説明を続けた。
「医者に連れて行くことも考えたが、あの姿のお前を他人に晒すのもどうかと思って……結局俺の部屋に……」
「!!」