社長、それは忘れて下さい!?
龍悟の萎縮した態度を見て、それ以上は言葉にしなくても理解できた。身体が動かない理由も合点がいく。
冷たさを感じていた全身の温度が一瞬で熱さに変わる。顔から火が出そうなほど恥ずかしい心地を覚えたのは、先週末の龍悟との行為の一部始終を思い出してしまったからだ。
涼花の恥じ入った様子を見て、龍悟も涼花が前回の出来事を思い出していることに気付いたようだった。
「悪かった。……これは、俺の責任だ」
龍悟が謝罪の言葉に、涼花は驚いて顔を上げた。
事前に忠告されていたにも拘わらず、警戒心もなく出された料理や酒に口をつけたのは涼花が悪い。しかしそれらは見た目も味も至って普通だった。変な薬が入っている可能性など、説明されるまで考えもしなかった。
だが出された料理や酒に一切口をつけず断ることは、ただの秘書でしかない涼花には出来ない。そんな無礼は許されない。ゆえに自分が悪いと思っても、知ったところで回避することはできない。今また同じ場面に戻ったとしても、同じ状況にならないとは涼花にも断言できないのだ。
けれど龍悟が謝る必要はない。不測の事態が起こった時に判断を誤って事故が起きれば、上司が責任を取るのは世の常だろう。龍悟の言う通り、確かに責任は彼に生じる。
でも、そうだとしても。