社長、それは忘れて下さい!?

 怒っているに、決まってる。

 今回は旭の機転もあり涼花が手籠めにされることはなかったが、危うく彼女を犯罪に巻き込むところだった。次に杉原の顔を見たら無意識に殴ってもおかしくはない程度には怒っている。

「けど、それじゃ何も解決しないだろ。ホテルのレストランではうちの従業員だって働いてるんだ」

 かといって、野放しにしておくわけにも行かない。祖父の代から世話になっている人だとしても、今のグラン・ルーナ社の社員や従業員に危害を加えるような人物だと分かった以上、近いうちに相応の制裁を与えて、しかるべき対処をしなければいけないのは決定事項だ。

 不意に涼花の苦しんでいる様子を思い出す。守れてよかったと思う反面、たまたま具合が悪くなったタイミングでその場にいなかったらと思うと、背筋が薄ら寒い。その寒気が収まれば、今度は腹の奥底から怒りが沸き起こってくる。

 昨日からこの感情の起伏の連続だ。これを抑えるため心を落ち着けようと思うと、その反動から旭にはあまり怒っていないように見えるらしい。だが、そんなことはない。

 準備の期間を設けるだけだ。龍悟は何においても完璧に情報を収集し、緻密な計画を立て、幾重にもシミュレーションを繰り返し、確実に実行に移す戦略を好む。

「いずれちゃんと潰すよ」
「……社長、怖いですよ」
< 63 / 222 >

この作品をシェア

pagetop