社長、それは忘れて下さい!?
溢れる怒りを抑えずに低く呟くと、旭が目を合わせないまま息を詰めた。旭が冗談ではなく本当に怯えたように言うので、龍悟はフッと怒りを仕舞い込んでため息を零した。
「ていうか、アレだな。今日、秋野いないから煙草吸えるな」
「いいですけど、多分バレますよ。涼花、鼻いいし」
龍悟の提案に、旭が控えめに便乗してきた。
普段『執務室』と呼んでいるこの部屋は正確には『秘書執務室』で、本来社長が業務を行う『社長室』はすぐ隣に位置している。だが情報共有のたびにいちいち部屋の行き来をしたりメールや電話を使用してやりとりをするのは面倒なので、龍悟が秘書執務室に一緒にいるという少し変わった形態をとっている。
だからほとんどの人間は知らないが、社長室の立派なプレジデントデスクには、滅多に立ち上げないPCが一台置かれているだけ。引き出しの中にも何も入っていない。来客があるときだけ真面目な顔をしてデスクに座るとそれっぽく見えるが、実は見掛け倒しという訳だ。
そして執務室は全面禁煙だが、喫煙を好む来客もあるため社長室では喫煙することができる。とはいえ、社則では社長であろうと社長秘書であろうと、喫煙スペース以外では喫煙してはいけないことになっているので、あくまで涼花がいないとき限定だ。
「俺は共犯ですよ。主犯はあくまで社長ですからね」
「はいはい、わかってるよ」