社長、それは忘れて下さい!?
2-6. Friends come
エリカには申し訳ないと思ったが、イベントへの参加はキャンセルさせてもらうことにした。
急な予定変更を怒られても仕方がないと思っていたが、連絡を入れるとエリカは驚きの速さで家を訪ねてきてくれた。彼女が持ってきたテイクアウトのお惣菜とジュースを口にしながら事情を説明すると、
「よかったじゃん、涼花!」
と明るい笑顔を向けられた。その表情を見た涼花は、つい苦笑してしまう。
「よかった……かなぁ?」
「そりゃそうでしょ。忘れない人がいるなんてすごいじゃん!」
涼花の長年の苦悩を知るエリカは、同衾しても涼花のことを忘れない男性の出現に大手を振って喜んでくれた。
だが涼花はエリカのように手放しには喜べない。何故なら龍悟がたまたま涼花のことを忘れなかったというだけで、次に出会う人が涼花との夜を忘れない保証はどこにもない。そう告げると、エリカはきょとんと不思議そうな顔をした。
「え、社長と付き合えばいいんじゃないの? 別に既婚者じゃないんでしょ?」
「違うけど……今は恋人いないらしいけど……」
「じゃあ付き合っちゃえばいいじゃん」
「そんな簡単な話じゃないでしょ~!」
涼花は新たな悩みに直面した心境で、がくりと項垂れる。
たまたまそういう状況が重なって機会に恵まれただけで、龍悟は涼花のことを好きなわけではない。涼花の想いが届いたから結ばれたわけでもない。