社長、それは忘れて下さい!?
3-2. Impatience kiss
龍悟と二人きりになれないまま二日の時間が経過した。今日は旭が私用のために定時で帰ると言っていたので、涼花は業務終了時刻を過ぎてから龍悟と二人になるタイミングを伺っていた。
会議を終えて執務室に戻ると時計は終業時刻を通過しており、あらかじめ宣言していた通りすでに旭の姿は見当たらなかった。彼の帰宅と業務の進捗報告を確認しつつ、涼花もPCの電源も落とす。
今日はエリカと約束した合コンの日だ。仕事が終わったら連絡が来る事になっているが、スマートフォンの通知を確認してもまだ連絡は入っていない。
帰り支度を始めている龍悟の背中を見て、待ち望んだタイミングに恵まれたと気付く。今なら旭もいないし時間的な余裕もある。
たくさん迷惑をかけたのに、それを忘れてしまった事を謝らなければいけない。そしてひどい状況でも涼花を見捨てず、ちゃんと面倒を見てくれた事にも感謝を伝えなければいけない。
「社長、あの……」
「ん?」
身支度を終えて龍悟の傍に立つと、広い背中を呼び止める。龍悟は涼花の呼びかけに、優しい声音で『どうした?』と振り返った。その姿に思わず言葉を忘れて魅入ってしまう。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、とは美しく気品がある女性を形容する言葉だ。だがそれは龍悟にも当てはまる気がする。立ち姿はすらりとしていて優美、背もたれにゆるく背中を預けて座る姿は優雅、歩く姿はいつも凛としている。