社長、それは忘れて下さい!?

 しかし涼花は個人的に、この後ろを振り返る一瞬が龍悟の魅力を最も引き立たせる瞬間だと感じている。

 彼の背中には相手に興味と畏怖を抱かせるような強いオーラがある。初対面だと後ろから話しかけるのをためらうほどだ。

 けれど振り返った時の笑顔は、いつも優しい。整った切れ長の目元が少しだけ下がり、口元が笑みを形作る。その笑顔を見つけると、呼び止めた瞬間の躊躇は霧散し、いつも見惚れてしまう。

 振り向いた龍悟がふと涼花の手元を見た。龍悟が振り返ったその瞬間、涼花のスマートフォンが震えたからだ。驚いて思わず画面を確認すると、明るくなった画面の中央には『滝口エリカ:仕事終わったよ。待ち合わせどうする?』と表示されていた。

「あ……」

 気付いたときには遅かった。スマートフォンの画面には『滝口エリカ:今日は相手も二人だよ。いっぱい飲も!』とさらにメッセージが送信されてきて、次の通知が表示されてしまう。思わず背中にスマートフォンを隠したが、龍悟には見えてしまっていたようだ。

「なんだ、今日は合コンか?」

 ふ、と龍悟が低いを出すので、涼花は咄嗟に俯いた。

 後ろめたいことは一つもない。なにせ恋愛をしろと涼花に要求してきたのは龍悟の方で、今日はそのための合コンだ。だから隠す必要はない。

「……そう、です」
「へえ?」
「あの……社長が恋愛をして、笑顔を作れるようになれとおっしゃったので……」
「確かに言ったな」
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