社長、それは忘れて下さい!?
さほど気にしていないように、龍悟が口元に笑みを浮かべた。もちろん仕事であれば、最低でも秘書のどちらか一人は付き添うことになる。だが業務時間外だし、今回は仕事でもないので付き合うか付き合わないかは各々の判断に委ねられる。
「お車の手配はよろしいんですよね?」
「あぁ、今日は酒も飲まないから自分で運転して帰るよ」
上着に袖を通した龍悟の動きに合わせ、涼花も立ち上がる。龍悟は
「別にいいよ、見送りなんて」
と言ったが、涼花が旭を残して龍悟の後ろを着いて行っても、それ以上は何も言わなかった。
エレベーターを待つ龍悟が、上着のポケットから車のキーを探すように腕を動かす。近距離で身体が動くと、彼の肌の香りがふわりと届く気がした。それと同時に熱夜の記憶も蘇りそうになり、慌てて首を振って思考を追い払う。
「仕事はまだ残っているのか?」
「いいえ、本日分は全て終えております。明日のスケジュール確認を終え次第、退社予定です」
「そうか。あまり無理はするなよ」