社長、それは忘れて下さい!?

 安心とも、残念ともとれるような口振りに、涼花はまた悩んでしまう。頬杖をついた龍悟が、口元を押さえて何かを考え込む仕草をする。口元が隠されて龍悟の感情が読み取れなくなったので、涼花は彼の腹の内を探るのを諦め、素直に謝罪の言葉を口にした。

「大変申し訳ありませんが、社長の望む状態に到達するまでには、まだ相当な時間がかかると思いますよ」
「ん? そうか?」

 ところが涼花の宣言を聞いた龍悟は、意外そうな声で顔を上げた。

 首を傾げた龍悟と同じく、涼花の首も斜めに傾く。そうか? の意味を考えていると、龍悟が口元を緩めて、涼花を褒め出した。

「少し雰囲気がやわらかくなったというか……女性らしくなったと思うぞ」

 だが褒められたと感じたのは最初だけで、後半は褒められているのかどうかわからない台詞だ。女性らしく『なった』ということは、元々はそうじゃなかったということだろうか。

 胸の奥に湧き上がった反抗の声が外に出ないよう注意し、努めて冷静に問いかける。

「今までは女性らしくなかったですか?」
「いや、そうじゃなくて……こう、隙があるというか」

 龍悟が自分の台詞をフィードバックしながら呟く。涼花を傷つけないよう言葉を選んでいるのだろうが、回答に悩む姿は珍しい。

 龍悟は巧みな話術と気さくな性格で、いつも相手の心をすぐに掴まえる。あまり言葉選びに苦悩する様子は見かけないが、どうやらビジネス以外で女性を褒めるのはあまり得意ではないようだ。
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