社長、それは忘れて下さい!?
「堅苦しさが薄れた、も、違うな?」
龍悟の女性関係の乱れた噂はあまり聞かないが、これだけ完璧で男前なのだ。周りは放って置かないだろうし、見合いを断った話なら何度か聞いたことがある。きっと自ら女性を口説かずとも相手の方が龍悟に興味を示すから、手ずから女性を褒める必要はないのかもしれない。
「色っぽくなった……は、ハラスメントか?」
聞き返された涼花は、とうとう堪えられなくなった。慌てて手で口元を覆うが、唇の端から漏れ出る声は止められない。
「ふ、ふふっ」
「……秋野?」
「ハラスメントかどうかは、合コンに行ったのかと聞く時点でアウトだと思います」
そう言い終わるや否や、また笑いが込み上げてくる。
あの一ノ宮龍悟が、女性の変化を褒め損なって四回も言い直し、しかもその上でやっぱり間違えるとは想像もしていなかった。きっと『綺麗だ』とストレートな表現ならば、澄ました顔で言うのだろう。もしくはいつも淀みなく答えられるところを、今日だけしくじったというのならば、それもそれでまた珍しいものを見た気がする。
「……お前、本当に恋人が出来たわけじゃないんだよな?」
くすくすと笑っていると、龍悟が少し困ったように問いかけてきた。
念を押すような疑問と声が、龍悟から見て涼花に変化が訪れたことの何よりの証拠に思える。もしも龍悟が気付くほどの変化が涼花に現れたのなら、それは涼花が『恋心』を認めたからだ。