社長、それは忘れて下さい!?
今日の涼花は髪をハーフアップにまとめ、夏らしい水色のシフォンワンピースを身に纏っていた。スーツでも良かったが『折角のパーティに華がない』と龍悟と旭に呆れられたので、五分袖に膝下丈であまり華美ではないワンピースを選んだ。上から下に行くほど濃くなる水色のグラデーションに合わせ、足元はネイビーのヒールを着用している。
「磨きかかってるなぁ」
「何がです?」
「最近『可愛くなった』って言われない? あと『笑顔が素敵だね』とか」
旭に褒められ瞠目する。来客の目があるので、あまり感情に出さないようにしようと思ったが、照れたせいで顔が少し熱くなるのを感じた。
「言われませんよ。誰にですか?」
「んー、社長とか」
「……言われないです」
次の言葉には高いヒールから踵が落ちそうなほど動揺したが、それを気取らせないよう下半身に力を入れる。涼花の背筋がすっと伸びると旭は可笑しそうに肩を揺らしていたが、涼花は顔を背けてその様子に気付かないふりをした。
そんなやり取りをしていると、涼花と旭が目的としている人物が到着したと知らせを受けた。雑談を引っ込めて視線を合わせると、どちらからともなく頷き合う。
ようやくこの瞬間が訪れた。レセプションパーティー直前のこのタイミングで新たな企画を無理矢理捻じ込んだのも、全ては彼への対処を万全に期すためだ。