社長、それは忘れて下さい!?

「ようこそお越しくださいました、杉原社長」
「君は社長秘書の……」
「秋野でございます。先日はお見苦しいところをお見せ致しまして、大変申し訳ございませんでした」

 上手く誘導されて二人の前にやってきた人物に、先日の非礼を詫びて丁寧に頭を下げる。前回と同じく秘書を連れてやってきたホテルオーナーの杉原は、涼花の言葉に一瞬たじろぐ様子を見せた。だがすぐに下卑た笑みを浮かべて、涼花の全身を嘗め回すように眺める。

「身体は大丈夫だったのかね?」
「はい。すぐに病院へ向かって抗アレルギー薬を投与致しましたので、大事には至りませんでした」

 杉原と対峙すれば、声が震えたり嫌悪感でいっぱいになるかと思ったが、実際はそこまでの緊張はしなかった。あの日早い段階で意識を失った涼花には、龍悟や旭と杉原のやりとりがほとんど聞こえていなかったからだろう。

 あらかじめ用意しておいた回答を並べると、杉原は拍子抜けしたように『そうか』と呟いた。

 もちろん涼花には食物アレルギーなどないので、全て大嘘である。旭によると涼花は蟹のすり身が入ったお吸い物を口にしていたらしいので、更に突っ込まれたら甲殻類アレルギーだと嘯こうと決めていた。だが結局そこまで詳しくは追及されなかった。

「杉原社長。先日は会食にお招き頂き誠にありがとうございました。大変申し訳ございませんが、本日はこちらでボディーチェックを受けて頂きます」
「な、なぜだ!?」
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