金曜日はキライ。
日葵の手がわたしの手を握り返してくる。
心地よい体温は、小さい頃から何一つ変わらない。
「ほろちゃんお待たせ。はいどうぞ」
優しくて爽やかだなあ。
「千昂くん、ありがとう。化学何時間目かな?」
「もう終わったから今日中であればいつでも平気だよ。ラクガキあったら笑っといて」
「ふふっ、わかった」
きっとラクガキなんてないんだろうけど。
「ラクガキなんて千昂はしないでしょう。清雨はラクガキだらけだけど」
ちょっと笑いながら日葵が言う。
きっと見たことあるんだろう、常盤くんのラクガキを思い出してる。わたしが知らないことだ。
「あいつ絵の才能けっこうあるよな」
「あるねえ。偉人とかかっこよくなるもん。千昂の似顔絵とかも見せてもらったことあるよ」
「まじ?ほろちゃん、今日の選択授業の時見せてもらおーよ」
暗い思考になってる場合じゃない。
今日は月曜日。隣の席で勉強できる奇跡の日だ。
「うん、そうだね。わたしも描いてもらおうかなあ」
あ、でも勉強のジャマするわけにいかないよね。でも、描いてもらいたい。
「数倍不細工に描いてくるから腹立つよー」
…日葵は、描いてもらったことがあるみたい。いいなあ。やっぱりわたしも、頼めたら頼んでみよう。不細工だってぜんぜんいいよ。
「じゃあ千昂あとでね」
「実験張り切りすぎて失敗すんなよ」
「しないもーん」
千昂くんがひらひらと手を振る。わたしに向かって笑いかけられたから、わたしも振り返す。
笑えていたと思う。ちゃんと。