金曜日はキライ。


日葵の手がわたしの手を握り返してくる。

心地よい体温は、小さい頃から何一つ変わらない。


「ほろちゃんお待たせ。はいどうぞ」


優しくて爽やかだなあ。


「千昂くん、ありがとう。化学何時間目かな?」

「もう終わったから今日中であればいつでも平気だよ。ラクガキあったら笑っといて」

「ふふっ、わかった」


きっとラクガキなんてないんだろうけど。


「ラクガキなんて千昂はしないでしょう。清雨はラクガキだらけだけど」


ちょっと笑いながら日葵が言う。

きっと見たことあるんだろう、常盤くんのラクガキを思い出してる。わたしが知らないことだ。


「あいつ絵の才能けっこうあるよな」

「あるねえ。偉人とかかっこよくなるもん。千昂の似顔絵とかも見せてもらったことあるよ」

「まじ?ほろちゃん、今日の選択授業の時見せてもらおーよ」


暗い思考になってる場合じゃない。
今日は月曜日。隣の席で勉強できる奇跡の日だ。


「うん、そうだね。わたしも描いてもらおうかなあ」


あ、でも勉強のジャマするわけにいかないよね。でも、描いてもらいたい。


「数倍不細工に描いてくるから腹立つよー」


…日葵は、描いてもらったことがあるみたい。いいなあ。やっぱりわたしも、頼めたら頼んでみよう。不細工だってぜんぜんいいよ。


「じゃあ千昂あとでね」

「実験張り切りすぎて失敗すんなよ」

「しないもーん」


千昂くんがひらひらと手を振る。わたしに向かって笑いかけられたから、わたしも振り返す。

笑えていたと思う。ちゃんと。

< 132 / 253 >

この作品をシェア

pagetop