金曜日はキライ。
千昂くんの教科書は選択授業の時に返した。実験だったのにいつも以上に教科書を使う授業だったからすごく助かったことを伝えると「またいつでも頼って」って言ってくれた。
日葵の彼氏が千昂くんみたいな優しい人でよかった。中学の一時期付き合っていた人はなんだか話しかけにくい人で、日葵が悪びれもなくわたしを理由にデートを断ったりするとけっこう文句を言ってきたりして、あの人はこわかったなあ。
「ずっり」
常盤くんがぼそりとつぶやく。どうしたんだろう。
「はー。露木、おれのこと頼ればよかったのに」
「……へ?」
「清雨は同じクラスなんだから仕方ないだろ」
ほろちゃんのこと困らせる発言すんなよ、と言われると、常盤くんはちょっと不機嫌な顔のまま「ベンジョ」と席を立つ。
ぶっきらぼうな態度で言われた言葉を頭の中で何回か繰り返したけど、よく意味がわからない。なに…今のは、なに。
「勝手にふてくされちゃったよ。しょうがないのにさ」
「あ、の…今のは気まぐれですか…?」
「期待してもいいんじゃない?」
「期待って…」
千昂くんってもしかして、わたしの気持ちに気づいてる…?
不安でしかない。見つめるように見ると、千昂くんはちょっと困ったように笑った。
「清雨が野球教えることなんて雨綸以外ないよ」
どきりとした。昨日のことだ。常盤くん、千昂くんに話してるんだ。
「昨日のこと…」
言いかけて、やめた。こんなこと千昂くんに頼む必要ない。常盤くんが話してるってことはべつに誰に伝わってもいいって思ってること。