金曜日はキライ。


低いけど聞き取りやすい声が、ちょっと視線を泳がせながら、つぶやくように言った。

すごく自然に、言ってくれた。


「……っ」


顔が熱い。どきどきと胸が高鳴る。
だけどうれしさより、焦りが募ってる。


『期待してもいいんじゃない?』という千昂くんの言葉が頭に響く。

いいわけないよ。期待したってきっと無駄だよ。常盤くんのこと好きでいる時点で身の程違いなんだから。


なのに。



「ちょ…ちょっとなんでわたしが言おうとしたこと清雨が先に言っちゃうの?なんか腹立つんだけどっ」


日葵の尖った声がする。でも、頭がまわらない。


「清雨ってば素直に言いすぎだよー!その通りだけどさ」

「…っ」


志保梨ちゃんがすかさずフォローしてくれたんだけど、きっとこのままじゃ気づかれる。

わたしの顔…今真っ赤になってると思う。泣きそうになってる。ぐっとうつむいたけど、もう隠せてるかわからない。わからないよ。


日葵の視線が痛い。千昂くんと志保梨ちゃんが心配そうに見てくる。常盤くんはちょっと気まずそう。


笑ってありがとうって、ゆり菜ちゃんのおかげだって言えばいい。なのに何も言えなくて、うつむいて、うまく隠すこともできなくて。


「茉幌、行こっ」


日葵はわたしの腕を引いて教室を出ていく。

「清雨は平気で女子のこと褒めるからね」ってむっとした顔で言う。


「そう、だよね」

「茉幌が恥ずかしいじゃんねっ」


恥ずかしいけど、とてもうれしかったよ。

そう思っているのに言えなかった。言えるわけない。


「ねえ…髪、おかしいかな」

「かわいいよ!先に清雨に言われたから苛々してるだけ」


うそつき。

なんて責められるほど、わたしは日葵に正直になれてない。真っ直ぐ目を見て笑えなくなったのはいつからだっけ。日葵もわたしも、少しずつ、少しずつ、だけど確実に────


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