金曜日はキライ。
休憩後の試合、第一打席。
カキン、と快音が鳴り響いた。快晴を見上げると白球が青空に舞い上がっていくのがスローモーションのように見えた。
「ほ…ほろちゃん走れー!!」
アホの子みたいにあんぐり口を開けてボールのゆくえを追ってるとゆり菜ちゃんの声が耳に飛び込んできた。
そっか。走らなきゃ。
そう思って一歩踏み出す。車のエンジンがゆっくりとかかるように、心臓が高鳴っていく。
鈍臭くみられがちだけど、他のことはともかく運動は得意。だけど野球は苦手だった。
だってあんな細いバットで、あんなに小さなボールを打つんだよ。どこに行くかわからない小さなボールを、グローブで捕るんだよ。むりだよ。
そう思ってたけど、常盤くんがたくさん教えてくれた。自分の時間を使って、丁寧に。
だからとにかく、がんばりたかったの。
打てたよ。
苦手だったのに、できたよ。
「茉幌ー!まわれー!」
体育館にいるはずの親友の声が聞こえた。
次の休憩時間、ちゃんと話そう。常盤くんに習ったこと。常盤くんのことが、好きだってこと。…日葵の気持ちももっと知りたいってこと。
最初からそうすればよかった。
常盤くんには悪いけど、だけど、わたしは日葵とのこれまでの日々を失いたくない。話したい。
三塁を踏んでホームベースを目で捉える。
まだ大丈夫だ。このまま走り続けよう。
白いベースに太陽の光が反射する。
常盤くんと日葵が並んで話してる姿が見えた。
やっぱり、言えない。
やっぱり、話したくない。
話したいなんて、嘘。