金曜日はキライ。


「おーいまほちゃん、ぼうっとしてるけどダイジョーブ?」

「ひゃあっ」


そんな声とともに頬にひんやり冷たい感覚が広がった。おどろいて振り向くとりくちゃんがゆるやかな笑みを浮かべながら飲み物を持ってきてくれた。

休憩中でよかった。色々考えちゃってた。

それにしてもりくちゃん、いつもだったらこういう時イタズラが成功したみたいな満面の笑顔なのになあ。


「その様子じゃ、もしかして聞いたのかな?」

「え、」

「弓くん、あと2か月でここ辞めちゃうんだって。店長が残念がってたよー」

「あ……」


弓くん、他の人にも話してるんだ。

春になるころにはもう、弓くんはここにいないんだ。


「次はフレンチレストランで働くんだって」

「そっか」

「淋しくなるねえ」


淋しいどころじゃない。

きっと毎日慣れないんだ。弓くんがいない日々が思い出せない。


「わたしもそんなに敏感なほうじゃないけど…弓くんってまほちゃんのこと、きっと好きだよね。本人から聞いた?」


向かいに座りながら問いかけられた。


「えっ…と…」

「だってまほちゃん今日一回も弓くんと話してないでしょー。弓くんのほうもいつもだったらなんかしら用事作ってまほちゃんに話しかけにいくくせに今日はぜんぜんそんな様子ないしー。なんかわかっちゃうよ!」

「弓くん、そんなことしてるかな?」

「鈍いなあ」


自分では気づかなかった弓くんをこっそり教えてもらった気分になる。

あの誠実な人に、そんなふうに思ってもらえること。うれしくないわけない。


「でもまほちゃんは、好きな人がいるんだよね?」

「…うん」

「そっか。弓くん、残念だ」


わたしははやく、弓くんに向き合わないといけない。


それなのにどうして言えないんだろう。

終わりたくないなんて、なんて狡い考えなんだろう。


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