金曜日はキライ。
返事できる機会、たくさんあるんだけどなあ。
「なあ、ちょっとおまえが傷つきそうなこと話してもいい?」
「えっと、はい」
ほら、こうやって夜道をふたり乗りで帰ってる時間とか。
断ればいいしちゃんと返事をするチャンスだと思う。それなのに言えなくって自分が本当に嫌だよ。
「今日ゴミ捨てで店の裏出たら繁華街のほうにおまえの好きなやつ歩いてった。親密そーな女もいたけど付き合ってるやついんの、あいつ」
「か…彼女はいないはず」
「ふーん。じゃあアソビか。モテそーだし」
「常盤くんはそんなことしないよっ」
常盤くんはしない。今度こそ好きなやつのために何かできる自分になりたいって、野球の練習を見てくれた時に言ってたもん。
思わずムキになってしまったわたしに対して、弓くんは意地悪な声で「トキワくんね」と小さく笑った。
微妙な空気が流れはじめる。
「…ごめんなさい」
「何が」
いつも優しい雰囲気しか弓くんに感じてこなかったから、空気が少し違うだけで心臓がバクバクしてくる。
当たり前のように後ろから掴んでいた肩から手を離す。
早く答えを出さないからこういうことになるんだよ。自業自得だ。
「おい危ねえだろ」
離した手のうち、片方だけがとられる。
そのまま腰あたりの服を半ば強制的に掴まされる。
「簡単にあやまんなよ」
ぶっきらぼうだけど、空気もそのままだけど、弓くんの手のあたたかさだった。
夜空の星は今日もきれい。
こんなふうにしてくれる人、初めてなんだ。