金曜日はキライ。


「もっと上手く生きろよ」

「弓くんだって…おひとよしすぎるよ」


こんな話ふつう聞いてくれない。


「もしおまえが俺だったら聞くだろ?ほっとけねーよ。人が良いわけじゃない」


この人に好きになってもらえるような人間じゃないのに。


「ありがとう…気持ち、軽くなった」

「そ、よかったな」


日葵にあやまろう。もう少しだけ待ってもらおう。ちゃんと考えよう。

常盤くんに聞いてみよう。

こわいけどがんばりたい。

背中押してもらったこと、無駄にしちゃいけない。


「じゃ、りくとまわってやって。おれは帰る」

「えっ…ま、待って、何かする!」


やっぱり帰っちゃうのか。そうだよね。せっかく来てもらったのにわたしのせいだ。

なんて思ったことを解りきっていて、咎めるみたいにデコピンされる。


おでこ痛い。だけど弓くんは笑ってる。もうすっかりレアじゃない。


「なら一緒に写真撮って」

「写真?そんなのでいいの?弓くんはコック帽かぶってくれる?」

「そんなんでいーしそれもかぶるから、頼むよ、記念に」


記念に残すような格好じゃないけど…と思いながら渡された弓くんの携帯のカメラをわたしが操作する。内側カメラ。ひとつの画面にふたつの顔が並ぶ。


コック帽が似合わなくて笑ってしまった。げんこつされた。

弓くんの仏教面。わたしの痛がる顔。へたくそなツーショットを見た弓くんは、それを大事そうに撫でた。


「その格好似合ってるとか絶対言わねーから」


そんな言葉を置いて、背を向けて歩き出す優しい生意気な年下くんの姿。



……弓くん、もうひとつ、悩みがあるよ。

きみのこと、わたしはどうやって手放したらいいのかな。


いつもいつも、わたしの気持ちを何歩分も先に進ませようとしてくれる、そんな弓くんがいなくなったら、もう歩けない気がしちゃうんだ。

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