金曜日はキライ。


いとおしそうに、優しく。

千昂くんと日葵のことを見つめてつぶやいた。穏やかで静かな笑みだった。


常盤くんが笑っている。わたしが望んだ表情だった。うそじゃなかった。無理してるわけでもなく、心からのそれだった。


なのにどうしてわたしは泣いてるんだろう。


「露木?」

「みないで…」


見ないで。だってかっこわるい。情けない。どんなふうに捉えられるかわからないからこわい。自分でもこの涙をどう解釈すればいいのかわからない。

思わず背を向けた。

このまま別の場所に行こう。逃げよう。これ以上ここにいてこれ以上情けないところを見せたくない。


そんな思いで進めた足は、後ろから伸びてきた手によって止められた。

そのままぐっと引き寄せられる。



「待って」


何が起きたのか、よくわからなかった。


「なんで、泣いてんの」


すぐ近く、だけど頭の上から常盤くんの低い声が聞こえてくる。きみは背が高いね。わたしも高いほうなのに、ぜんぜん、きみのほうが高いね。

背中にまわった腕のちからがぎゅっとなったのを感じて、あ、いま、距離はゼロなんだなあってぼんやり思った。すがるような手だった。


常盤くんが怪我した日とはちがう。同じことをされているのにどうしてだろう、ちがうの。

熱のせいじゃないあたたかさ。

わたしにかけられた言葉。


わたしが、抱きしめられている。



「常盤くんは…どうして泣かないの?」


人の心臓の音ってすごい。服を着ていても、話していても、聴こえてくる。知らなかった。

今、一番近くにいる。

果てしなさは見えなかった。このままでいたくて、常盤くんのどこかをぎゅっとにぎりしめた。


涙があふれてくる。

常盤くんのことが、好きすぎて。


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