金曜日はキライ。
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前まで、好きなものを数えるよりもきらいなものや苦手なことを数えるほうが簡単だった。特に人に対してだったけど、いつも「あの子は苦手だ」「あの人はこわい」「話せない」「関わりたくない」なんて思っては日葵の後ろに隠れていた。人に何かを頼まれること、荷が重たくてつらかった。
そんなわたしの世界に突然、好きが与えられた。
淡い桃色の桜の木。それを連れ去る強い風。雨の音。雨のにおい。あの窓。野球。野球の試合中継。誕生日石。教室の中心がよく見える隅っこの席。体育の授業。このクラスのひとたち。先生からの頼みごとだってきみが手伝ってくれようとしてくれるから、好きになった。
だけどその分金曜日がキライになった。前は苦手なものから解放される瞬間だったのに、今は、次の日きみに会えないからキライ。
代りに月曜日が好きになった。前は大嫌いだったのに、きみはすごいね。
常盤くんのことが好きだなって思った…ううん、常盤くんと目が合った瞬間、かな。
わたしの世界は明るくなった。
「露木、おはよ」
日葵と下駄箱に靴を入れているとうしろから話しかけられた。振り向かなくても誰なのかなんてよくわかる。だから緊張する。
振り向く前にその準備が必要だ。息を吸って、吐く。もう一度吸って、止める。
これから常盤くんの姿を目に映すんだぞ、と事前にこの後起こるであろう出来事を暗示のようにつぶやいた。緊張が少しだけやわらぐ。よし、大丈夫。そこでやっと振り向くことができるなんて、変な人間だと思う、自分のこと。
「常盤くんおはよう。昨日の野球の試合、見ましたか?」
「え!見た、露木も見た?」
「見ました!アツい試合でしたね…!」
か…かんぺきだ!
昨日野球を見ながら散々シュミレーションして、声に出して練習して、でもぜんぜんうまく話せなくって、本人が目の前にいないのにこれじゃ話せないって思って台本まで作ってがんばったの。