金曜日はキライ。


やればできるらしい。昨日は会話にならなくて笑われたから今日はちゃんと話せて本当によかった。いや、笑ってくれるのはうれしいけど、学校がある日くらいはたくさん話したい。


「だねー。ツーアウトからの満塁ホームランね」

「わたしは録画したのを巻き戻して見ちゃいました。感動しました…!」

「あのさ、なんで敬語?」


ぎくり。

常盤くんってよく気づく人だ。


「や、あの、その……特に意味はなくって」

「ふうん。露木って本当おもしろいね」


あ、けっきょく笑われた。けど、笑ってる。ご褒美かな。台本、敬語でつくっちゃうっていうドジをしてしまったけど…。



「日葵、おはよう」

「あ、おはよ、千昂」

「千昂くんおはようございます」

「あはは、おはよほろちゃん」


別のクラスの下駄箱から来た千昂くん。含みのある笑みを落とされた。バレてる。これは、完全にバレてる。前から知ってたけど。


「今日の数学駒井当てられそうだな」


常盤くんがからかうようにそう言ってるのを聞いて、今日はじめてふたりが話したことに気づく。

わたしのほうが、先に話した。先に話しかけてもらった。


…なんて気持ちになるの、いやだなあ。いつまでも慣れない。


「やっぱりそう思う?今の数学の場所危ういんだよね」

「塾通ってた頃から数学できないだろ」

「なによう…!」


常盤くんの広い背中を弱い力でポカポカと叩く日葵。

うーん。いいなあ。もうこれ、いやだいやだって思っててもしょうがない感情なのかもしれない。こんな気持ちになるの日葵にだけじゃないもん、なんて抵抗を頭のなかでする。


それにしても、塾の時の話、こんなふうにしてるの初めて聞いたかもしれない。


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