金曜日はキライ。


和央先生に頼まれごとをされると決まって自由時間が削られる。


「そんなむすっとすんなよなあ。悪かったって」

「思ってないことは言わなくていいですもん…」


今日は保健体育の授業で使うプリントのホチキス留めだった。おかげさまでバイトの時間までりくちゃんとカフェにいこうって言ってたのに約束を断るはめになってしまった。

だったら先生のことを断ればいい話なんだけど…でもすっごく困ってそうな顔で言うんだもん!断れないよ!来年は和央先生が担任から外れますように。


「あっという間に秋になったなー」


廊下を歩きながら窓の外を見てる。その視線につられていると、あの桜の木の色が茶色く変化しているのが見えた。季節の移り変わりって植物を見ればすぐにわかるんだなあって、あの日からなんとなく思ってる。



「おまえらが入学した日にさ、あの桜の木の花びらがほとんど散ったの知ってた?」

「風強かったですもんね」


大きな風に舞う淡い桃色。

よく覚えてる。その色の絨毯。雨のような桜の花びら。


「俺ね、その日の朝の出来事をここから見てたんだよねー。おまえら(、、、、)の淡いはじまりを」


和央先生って、すごい人だ。

意図してないのに顔があつくなったのがわかる。そんなわたしの様子を見て含みのある笑みを落とされる。和央先生と付き合ってるひとってきっと大変だと思う。だってなんでもバレちゃいそうだ。


頭をがしがし撫でられた。大きくて雑な手。なんだかんだ面倒見がいい。


「がんばれよ」

「…わたし、何もできません」

「そんなことねえよ。何かしらできてる。それくらい自分で認めてやれ」


えらぶった口調で、優しい。本当は来年も和央先生が担任だったらいいなって思ってることは内緒。


「気を付けて帰れよ」

「和央先生もお気をつけて」



─── きみのことを考えると 背景はいつも雨だ。


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