金曜日はキライ。


バイトまでの道を歩いてると弱々しく雨が降りはじめた。最悪だ。今日は傘を持ってない。

天気予報を見てくるのもわすれてしまっていた。

とりあえず走ろうと意気込んで足を一歩前に踏み出すと、後ろから「ほろちゃん?」と声をかけられた。


振り向くと千昂くんがいた。びっくりした。



「え、今帰り?遅くない?」


千昂くんも驚いた様子で、だけど灰色の傘を傾けてくれた。


「和央先生の頼みごとを聞いていて、これからバイトなの。千昂くんは?」

「集めてるシリーズものの文庫の最新刊が出たから日葵のバイト先に行こうと思ってたんだ。バイトなら同じ方向だし一緒に歩こうよ」


傘がないことを悟ってくれたみたい。わたしが返事をする前に歩きはじめて、そのタイミングをなくす。優しさに甘えて隣を歩くことにした。

千昂くんとふたりきりになることってめったにないからちょっと緊張してしまう。日葵の話、常盤くんの話、共通の話題はたくさんあるんだけど、とりあえず文庫の話をしてしまった。わたしも読んだ事がある本だった。


しとしとって表現がよく似合いそうな降り方の雨。

灰色の傘が空に同化しそう。


「清雨さ、友達にほろちゃんの話よくしてるみたいだよ」


ふいな言葉に弾かれたように顔をあげた。

そんなわたしを見て千昂くんはくくくっとのどを震わせる。


「えっなんで笑うの!?」

「だってほろちゃん、すごいうれしそうな顔するからさ」


思わず自分の顔をバシンと叩く。いたい。すぐに顔に出てしまうところ直したい。


「千昂くんがそんな話するから…」

「うん。喜ぶかなーって思って。「清雨と露木って仲良いらしいな」ってけっこう言われることあるんだよ」


うれしいよ。うれしくないわけない。わたしの話をわたしじゃない誰かを相手に常盤くんがしてるなんて夢みたい。


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